微妙な差の検証には向いていません

先日の page2020で弊社ブースに立ち寄られた方の中に「このアプリは画像が10μ移動したことを検出できるか?」とお尋ねになった方がおられました。答えは残念ながら「No」です。目指すところが違うのですよね。XORは主に「新旧PDFで無用な変更が生じていないか?」を確認するためのPDF比較ツールなので、描画要素の精度を検証する目的には他のアプリをお求めいただく必要があるでしょう。

さて、XORは10μの移動はもちろん微妙な差異の検出には向いていません。例えばこちらの二つのPDF紙面。

フチ無し

フチあり

両者の違いは白い矢印の黒フチの有無です。下の絵では矢印を少しくっきりさせました。

この二つのPDFをXORで比較するとこうなります。

比較結果

全体がグレー、つまり一見すると同じですね。

これを拡大表示させるとこうです。

比較結果のズーム

かろうじて赤や青が見て取れるけど、見過ごす可能性は大でしょう。

よってXORはこの手の微妙な差を探す用途には不向きです。機械的に比較しているので赤や青の発色はあるものの差が少なければ人の目ではなかなか認識できません。モニタの性能にも左右されるでしょう。

これはこのアプリの限界であり、既知の課題ながら諦めた部分です。「そもそも人が見過ごすような変化なら大きな問題になることもないだろう」と割り切って開発しました。

赤や青のピクセルを自動検出する機能をつければ解決しますが、現時点における優先度の都合からそのような機能はまだ搭載されていません。

改行したらどうなる?

XORにおけるPDF比較に対して時おり訊ねられるのが「例えばページの途中で改行があった場合、どうなるか?」というもの。「”改行された(それ以降は内容が変わらずに移動された)”と知らせてくれる」といった答えを期待してのものでしょうが、残念ながらそうはなりません。XORの比較はページを画像として比べるので改行が発生した箇所以降はすべて差分として表示されます。たまたまピッタリ合致した箇所を除いては。

よって「どこがどのように変わったか?」を望むのであれば、PDFを解析して比較するProof Checker ProのようなPDF比較アプリ(デジタル校正ツール)が相応しいでしょう。あるいはAcrobat Proか。

対してXORは「どこが変わったか?」だけを示します。これは私が制作者として働いていた際にそれでも十分有益だと確信したためです。「どこが変わったか?」は裏を返せば「どこが変わっていないかを特定できる」ということです。初校→再校→三校と段階的に完成を目指す制作では「どこかに無用な変更が生じていないか?」を簡単に確かめられるだけでも疑心暗鬼のストレスから解放され、時間短縮・コストカットに繋がります。

それに、もしアプリが「どのように変わったか」まで示してくれても、それが「その変更は意図した通りか?」は人間が確認してやる必要があります。だったら「どこが変わったか?」だけでもよかろうと。

そもそもPDFのデータを解析して比較するようなアプリの開発には膨大な費用がかかるので、月額2,000円のサブスクリプションで提供するのは到底不可能です。

xor concept animation
XORはPDFのデータを解析せずビジュアル的に比較します

変わってないところを探すべし

おかげさまでXORに対する引き合い、お問い合わせが少しずつですが増えてきています。ありがとうございます。このまま勢いに乗れれば新機能の搭載時期も近づきます。

さて、PDF比較(検版)アプリは「変わった箇所を探すために使うもの」と思われがちですが、XORの最も効果的な使い方は「無用な変更が生じていないかの確認」です。

もちろん「変わったところを探す」と「変わっていないところを探す」は同じ作業の裏表なのだけど、どちらに主眼を置くかによって得られる成果、そして最適なアプリは違ってきます。

DTPではときおり無用な修正が紛れ込みます。それ自体は避けられないので確実に見つけて対処するしかありません。もちろん頻繁ではないもののベテラン制作者は過去に何度も痛い目に遭っているため、変更が起きていないはずの箇所も広範囲に確認する癖がついているはずです。でも、長い時間をかけても何も見つからない場合も多く、しかもそれは無用な変更が無かったことを意味しません。散々時間を費やした上に見逃すこともあり得ます。

そこでXORを使って「変わっていないはずのページや箇所が無変化だった」と確信できれば疑心暗鬼のストレスから解放されるし、それらを確認対象から除外することで工数削減、コストカットできる制作現場があるはずです。実際、私の前職の取扱説明書制作がそうでした。そう、私には「XORみたいなアプリを使えていれば、あの時の手痛い見逃しは避けられたはずだよなぁ」と思い当たる節がいくつかあって

シンプルな機能しか持たないXORですが、二つのPDFで対になるページを画像化して比較するため、変わっていないことを確かめるには十分です。そして最も手頃に導入できるアプリだと思います。

XORによって削れるコストは「無用な変更を探す」という作業

電動自転車的なアプリです

先日、とあるドキュメント制作会社の方からお問い合わせをいただきました。「説明動画を見てXORのことが気になっているけど、大量ページで写真を目一杯扱うような制作案件にも対応できるか?」と。具体的には商品カタログとかなのかな。

私も否定的な発言はしたくなかったけど事実は誤魔化せないので「残念ながらそのような用途には不向きです」と答えざるを得ませんでした。大規模な制作物の場合、PDF比較であってもある程度は自動化できないと追いつかないですよね。

そう、XORは「機能を最小限に抑える代わりに誰でも導入できるように」をテーマとしたアプリ。いわば電動アシスト付き自転車的な方向性です。

移動や運搬の手段としての総合力だと自転車は自動車には到底敵いません。大人は同時に一人しか乗れず、圧倒的に遅いし高速道路の利用は不可。エアコンもなければ雨風にも弱く、動力は人力です。前カゴや荷台の積載容量もたかが知れています。

その反面、自転車は歩道の走行も事実上容認されていて保育園への子供の送迎や日々の買い物用途に限れば有利とも言えましょう。運転にも難しい技量は必要ありません。

そして何よりも自転車は圧倒的に安価。ガソリン代や税金などの維持費もかからず、駐輪スペースは賃貸住宅でも無料です。

何が言いたいかというと、PDF比較アプリ(デジタル校正、検版ツール)にも向き不向きがあるということ。ページが膨大でPDFの比較作業を自動化できなければ追いつかない制作案件ではProof Checker Proのような高機能・高性能アプリのご利用が最適だと思います。

他方で、XORは「手作業でも事足りる制作案件向き」です。せいぜい数十ページ規模の。例えば名刺、帳票フォーマット、チラシやリーフレット、家電や建材の取扱説明書などかな。

使い方も「差分を見つける」というよりは「無用な変更が発生していないことを確認する」という目的に有益です。私も何度も痛い目にあっているけど、DTPではときどき予想外の変更が紛れ込むので

XORによるコストカット

今後印刷業従事者は今まで以上にコストに敏感にならざるを得ないと思います。景気後退が予見されているし、少なくとも五輪特需は終わるので。悪材料はたくさんありますよね。

私が過去にディレクターや編集者、DTPオペレーターなどとしてドキュメント制作に携わった経験からいくと、一連の作業工程の内、工夫によってカットできそうなのは「どこかに紛れ込んだかもしれない無用な変更を探す」だと思います。

Webなどとは違ってページサイズが固定なためDTPではちょっとした修正でもレイアウト変更が発生します。しかも作業のクオリティはスケジュールの切迫度や担当者の体調、関心事などによっても左右されるし、作業量に比例してミスも増えます。DTPオペレータは常に万全の作業を心がけているため先入観が働き、確認は甘くなりがちです。

よって編集者はDTPオペレータからPDFが上がってきたら、原稿の修正指示の箇所以外も広範囲を確認しています。どこかに無用な変更が紛れ込んでいるかも知れないので。ただし、この無用な変更を探す作業には高い集中力とスキルが要求されるため、精度には個人差が出ます。また、長い時間をかけても何も見つからず徒労に終わる可能性もあります。とりわけミスを見逃した後ともなると、疑心暗鬼からどれだけ確認しても安心できずストレスになります。

そこで私はXORを開発することにしました。XORを効果的に使えば「どこかに紛れ込んだかもしれない無用な変更を探す」という工程を省け、時間短縮、つまりコストカットに繋がります。

手順はこうです。

コストカットのためのXORの利用手順

①:校正の最初にXORで新旧のPDFを比較し、片っ端から囲みを付けてしまいます。この作業の意味が判らない方は、こちらの動画の最初の2分間をご視聴ください。

②:DTP原稿の修正指示と囲み箇所を照らし合わせていきます。ただし、修正結果の良し悪しはまだ確認しません。ここで見るのは、それらが対になっているかどうかだけです。

そして修正指示に対応する囲みが見つからなければ修正漏れの可能性があります。逆に修正指示がない箇所に囲みが見つかった場合は無用な変更がなされた可能性があります。オペレータが確信を持ってそう対処した場合もあれば、単なるミスの場合もあるでしょう。それらの妥当性を確認してください。

そうして懸念が解消されたら③に進みます。

③:確認が必要なページや箇所を限定(確認不要なページや箇所を除外)します。

④:すべての修正指示が正しく反映されているかを確認します。

つまり、「どこかに紛れ込んでいるかも知れない無用な変更」を②の段階で洗い出してしまうわけです。

XORのようなPDF比較アプリを使わない校正の場合、いきなり④の工程に挑むため、その後に手がかりもない状態で無用な変更を探す必要があり、気が済むまで確認することになってしまいます。