リスキリングを条件に解雇規制を緩和するって?

小泉四世こと小泉進次郎衆議院議員が自由民主党総裁選への出馬を正式に発表しました。

小泉進次郎衆議院議員

彼が打ち出した政策案の内、私が気になったのは「リスキリングを条件に解雇規制を緩和する」というもの。日本経済を活性化させるべく労働市場の流動性を高めたいのだろうけど、これ、悪手です。

まず、よく言われる「大企業では社員の解雇が難しいから雇用の流動性が高まらない」は幻想です。なぜならコストカット経営が根付いた日本では企業が正社員を解雇しても、次に正社員を雇うとは限らないので、解雇のしやすさでは雇用の流動性の向上は担保されません。

そればかりか解雇規制を緩和すれば、理論上、経営者が特定の社員に対して「割増退職金を受け取って辞めるか、それとも賃下げを呑むか?」と迫れるようになります。結果、転職市場で不利な中高年、あるいは住宅ローンや子供の教育費負担を抱えているなどでキャリアを途切れさせたくない社員がますます経営者の顔色を伺って働かざるを得なくなります。賃上げ交渉なんてもってのほかです。

解雇に際して企業には社員へのリスキリングを義務付けるにしても、取り組んだ社員がどういう成績や成果をいつまでに達成すれば解雇対象から外れるのかも曖昧です。というか、企業ではリスキリングに費用を割くにしても、辞めてほしい社員ではなくそれ以外の社員のスキルアップに投資したいはずだから、同一労働同一賃金の話と同様、経営者側の匙加減次第のリストラ手段として使われかねません。

中には「まともな企業ならそんなことはやらない」と言う声もあるかもしれないけど、経営難になった企業はなりふり構わないものです。企業全体が倒産危機に見舞われずとも、部門ごとの統廃合などは十分ありうるし、その都度人員調整は発生します。

そもそも解雇規制の緩和ってのは「希望退職を募れば他社でも通用する辞めてほしくない人まで辞めるから、名指しで首切りができるようにしてほしい」という経営者のエゴであり、有望な人に十分な処遇をせず、戦力外の人材にも適切な選択肢を示せなかった怠慢企業を利するものです。

それに、転職はそもそも労働者にとってのベネフィット追求の機会であるべきなのに、その決定権を企業側に与えるのは本末転倒な話。それよりも正社員の身分を失っても不利にならない社会を目指すのが正攻法。リスキリングとセットにすべきは失業保険の方でしょう。有望産業や人手不足が顕著な分野のリスキリングに取り組む人には失業保険の給付を手厚くするような。つまり、企業が社員を辞めさせやすくするのではなく、個々の社員が自発的に転職しやすくすると。

まあ、それだと会社側が辞めさせたい社員を選べず、辞めて欲しくない人材に去られる可能性もあるけど、そこは引き止められない企業側の責任です。

だいたい企業が用意するリスキリングメニューはその企業が展開する事業に関連するものに限られ、産業間の人材供給の最適化にはならないけど、失業保険とセットのリスキリングであれば、個々の労働者が自身の判断で科目を選べるし、国としても労働力を手厚くしたい産業への人材供給を強化できます。

よって、失業保険の拡充などで社員が会社を辞めても収入が極端に下がらない状況が作れたなら、解雇規制を緩和してもいいでしょう。でも順番を間違うと、労働者はますます保守的になって今の企業にしがみつくので、労働市場の流動性は一向に高まらないでしょう。

カマラ・ハリス対ドナルド・トランプ

カマラ・ハリス対ドナルド・トランプ
写真はFNNプライムオンラインより

2024年の米大統領戦、バイデン大統領が候補だった頃とは一転してカマラ・ハリス副大統領がいわゆる激戦州においてもドナルド・トランプ元大統領を世論調査でリードし始めました。

一部ではハリスが副大統領候補にペンシルベニア州のシャピロ知事を選ばなかったのが失敗だったと言う向きもあるけど、むしろ最重要激戦州での支持率が高いシャピロ氏には現職に留まって州内で側面支援をしてもらった方が効果的にも思えます。

また、高齢者候補どうしの争いを嫌うダブルヘイターは80代のバイデンが退いて60手前のハリスに変わったことで、ハリスに投票する可能性があります。トランプも歳の割には元気だけど4年前のバイデンよりも高齢だから、将来を託す相手としては相応しくないと判断されても仕方ないでしょう。一方のハリスは若見えするし。

そんな状況の中、トランプは例によってレッテル貼りによるハリス陣営攻撃に躍起になっているけど、そもそもネガティブキャンペーンに敵側の岩盤層を崩す効果はないばかりか、やればやるほど中間層、無党派層はうんざりして離れていくでしょう。

そんなわけでハリスは中間層、浮動票の受け皿になり得るけど、トランプは岩盤支持層以外の票の上積みが期待できないので厳しい戦いになるでしょう。浮動票も狙うなら副大統領にはバンスを選んでいないはずです。まあ、バイデンが相手なら浮動票は捨てても勝てると踏んだのだろうけど。

差し当たり9月10日に一回目が予定されているテレビ討論会次第だけど、ハリス陣営がよほどのヘマをしでかさない限り、11月もハリス勝利の線が濃厚だろうと。トランプ、暗殺未遂を生き延びた後に米国の半分ではなく全体の大統領候補になり損ねたのが致命的かな。

それにしても、日本のトランプ推し連中のなんと間抜けで滑稽なことか。ハリス推し、というか反トランプ派は「トランプの言動や資質が世界的に影響力が大きい米国大統領に相応しくない」と言うのに対し、トランプ推しは決まって嘘や罵詈雑言でハリス陣営を貶めようとするのですよね。マッタクモッテWeird。まるで反社組織のチンピラになったかのようだけど、そもそも日本在住で投票権もない人が日本でやったところで何の影響力もないというのに。

米国大統領選の行方

2024年11月の米国大統領選挙、暗殺未遂事件をドラマチックに生き延びたトランプ前大統領の圧勝かと思われたものの、ここに来てジョー・バイデン大統領が2期目への出馬を取りやめたことで状況が変わってきました。

ジョー・バイデン米国大統領

バイデンに代わる民主党の大統領候補はハリス副大統領。つい先日までの「失言王バイデンVS妄言王トランプ」「ボケ老人VSツッコミ老人」という構図が一転して、「元検事VS刑事被告人」に。ならば善人と目されるハリスで決まり、とはいかないのが米大統領選の面白いところです。

とは言えトランプ陣営は攻め手を慎重に選ぶ必要があるでしょう。女性蔑視や人種、民族などの属性で攻撃しようものなら浮動票が大きく動きかねないので。

事実、バンス副大統領候補のかつての「子供がいない女性が」という発言が物議をかもしていますよね。私は子供がいない女性ではないけど、猫好きの1人として聞き捨てならんです。まあ、猫好き男性はともかく、望んでも子供を持てなかった女性の投票行動には影響を及ぼすことでしょう。

しかも、トランプ(およびバンス)はあの性格なので向こう3ヶ月ちょっとの選挙戦で同様の不穏当な言動をしでかして自滅する可能性も小さくないと見ています。米国大統領選は結局のところいくつかの激戦州の浮動票が鍵を握るわけだし、不用意に蜂の巣をつついて痛い目に遭うと。

それにしてもトランプ推しの日本人って総じて間抜けで滑稽です。自身には選挙権もないのに応援者気取りで、相手方を嘲笑し、攻撃的になる傾向が見られます。親分に倣ったのか、考えが違う人を叩く快感を覚えてしまったのでしょう。

そこで思い当たるのは「久しぶりに帰省したら、実家の父親がYoutubeを見まくってて、すっかり発言がネトウヨ化していた」なんて話にそっくりだなと。

だいたいトランプはアメリカファーストなのだから、もし再選されれば、安倍晋三なき日本の負担は増やされて振り回されるのが目に見えいているのに。

ちなみに私のスタンスは「民主党側にも何ら思い入れはないけど、トランプは支持できない」です。それに、米国の大統領がどちらになろうとも日本は受け入れるしかないのだから、現時点で勝者を決めつけて肩入れするような発言は実にナンセンスだと思っています。

2024年、物流危機が到来間近

2024年4月より運送業者への残業規制が強化され、物流危機が訪れるのではないかと言われています。

大型トラック
写真はイメージです。記事の内容とは関係ありません

ネット記事をざっと横断して読んでいると「特に東北や四国といった地方部の物流が逼迫するだろう」とのこと。

でも、私は他にも東京の生鮮食品輸送も深刻になると見ています。なぜなら、時間外労働規制に最も引っかかりやすいのは走行距離=労働時間が長い長距離トラックドライバーだし、東京は食糧のほぼ100%を外部供給に依存していて、それには九州や北海道の生鮮食品も含まれます。この遠方からの輸送が滞りかねず、個々の商品の値上げは避けられなかろうと。

九州から東京への生鮮食品を運んでいる現役長距離ドライバーによると、今は翌日着だけど4月からは翌々日着にせざるを得ないそうな。復路もプラス1日なら輸送頻度が半減するわけです。トラック一台あたりの積載率などに工夫の余地はあるにせよ、これまでのような量を運ぶのは難しくなります。

よって関連業界では「航空・鉄道輸送への切り替え」「フェリー輸送との併用」「中距離リレー方式」「大型トラックや冷蔵トラックの導入」などを検討しているらしいけど、どれをとっても輸送コストは上がってしまいます。

もっとも長距離輸送の影響を大きいのは遠方からの生鮮食料品だけ。賞味期限がない品物は輸送に日数がかかっても問題ないし、生鮮食糧にしてもある程度なら近隣圏から調達できるかもしれません。中有近距離輸送なら残業規制には引っかからずに運べるでしょう。でも、おそらく東京の巨大人口を食わせる生産量は近隣圏にはなく、旬の観点もあるからこそ遠方から買い付け、取り寄せているわけだから、やはり長距離輸送が途絶えるのは拙いですよね。

ならば、ここは基本に立ち返るべきでしょう。荷主が輸送費を買い叩かずに商品価格に転嫁すると。そうしても野菜や魚介の小売価格が何倍にもなるわけじゃなし。おそらく1〜2割の値上げを消費者が受け入れさえすれば、荷主は正当な輸送費を支払って長距離輸送力の減少を最小に抑えられるでしょう。

というわけで東京に出回る食品のうち、遠方から届く生鮮食品は4月以降値上がりすると思います。北海道や九州からの新鮮な魚介類を売りにした飲食店なども一部のメニューは値上がりするでしょうね。

東京の物価については「不動産以外は高くない」とも言われてきたけど「不動産と遠方からの生鮮食品は高い」に変わっていくわけです。でもそれは本来あるべき姿への正常化のプロセスだと思います。

もしトラ成就後の悪夢

米大統領選挙、共和党指名候補争いでニッキー・ヘイリー氏が撤退し、ドナルド・トランプ前大統領が共和党候補に決まりました。

共和党指名候補争いでトランプ前大統領が勝利
ロイターのWebサイトより

民主党の代表はジョー・バイデン現大統領だから80がらみ対決ですね。THE W (2023)の「ゆりやんレトリィバァ対あぁ〜しらき」のように、どっちも負けにしたい気もします。いっそご長寿早押しクイズで争ってもいいのでは?

まあ冗談はさておき、もしトランプ氏が大統領に返り咲けば心配なことが多々。最たるものはイスラエル情勢でしょう。何しろトランプ氏はイスラエル支持を表明しており、今以上にパレスチナ弾圧、そして虐殺を後押しすることになろうものなら、米国内でまた9.11テロのような重大事件が引き起こされかねないだろうと。当然、米国は報復するし、そうなると周辺国にも戦火が飛び火して、いよいよ第三次世界大戦に発展してしまうかも。

まあ、ここまではありきたりな推測だし、唯一の超大国である米国がわざわざ大戦争を引き起こしはしないと思いたいところだけど、厄介なのは米国の中西部には福音派と呼ばれる「世界の終わりを望む人たち」が大勢いて、トランプの岩盤支持者となっていること。集団心理がトランプの軍事行どを暴走させたり、国内を二分して内戦を引き起こしてしまいそうな気がしてなりません。

地球を揺るがす北極圏 永久凍土の異変に迫る

9月23日(土祝)の午後、何気なくテレビを付けたらNHKのBSで『地球を揺るがす北極圏 永久凍土の異変に迫る』という番組を放送していました。どうやら再放送のようです。

地球を揺るがす北極圏 永久凍土の異変に迫る

内容は、近年地球温暖化の影響で北極圏の永久凍土が溶けており、それまで閉じ込められていたメタンガスが大気中に放たれつつあるというとのこと。メタンガスの温暖化効果は二酸化炭素の30倍だから、とんでもなくまずい事態です。

以前、ネット上のとあるサイトで「北極海の氷が溶けても海水面が上がることはない」と言い放つ人がいましたが、それって明らかな間違いですよね。

北極海に浮かぶ氷が溶ければ海の表面で太陽光を反射する白い部分が減るので海水温が暖まりやすくなります。ならばグリーンランドの陸上の氷も溶けやすくなるはずです。その上、メタンガスまで放たれるなら尚更。北極海の氷とコップの中の氷では影響範囲がまったく違います。

それはともかく、永久凍土の異変は由々しき事態ですが、我々現代人はエアコン、車、火力発電など温暖化ガスの発生を伴う便利な生活を諦められないですよね。

ならば、せめて世界中で可能な限り多くの建物の外壁や屋根をスペースクールで覆ったり、下記のような塗料で塗るぐらいの方策が必要かもしれません。

光の98%以上を反射する「最も白い塗料」が開発される、
白すぎて塗った物体が冷える

光の95.5%を反射する「究極の白いペンキ」
by Purdue University/Jared Pike

異次元の少子化対策の対案

国会議事堂

岸田総理が打ち出した「異次元の少子化対策」の評判がすこぶる悪いので対案を書きます。

まず、少子化対策は景気対策そのものです。景気が上向かなければ明るい展望が描けず「結婚はともかく子供は持てない」「子供を持てば経済的に苦しくなる」「子供に辛い思いをさせたくない」「結婚どころではない」といった風潮が続いてしまいます。月々5,000円の育児手当を支給してどうこうなるというものではありません。

それを踏まえて今できる景気対策、そして中長期を見据えてやるべき政策の提言は以下の二つ。

非正規フルタイムワーカーの時給を補助金で500円補填

派遣社員と非正規公務員は合わせて200万人超で大半がワーキングプアと言われているので、その時給を補助金でもって一律500円上げてやれば各人の年収が約100万円増えます。しかもこの層への支援なら多くが消費に回されるため景気浮揚の呼水としての効果が見込めます。

正社員への賃上げは個々の企業の管轄ですが、非正規の場合、派遣会社による雇用は一時的なものなので、賃上げのためには公的な支援が必要です。

そうして20代、30代の非正規フルタイムワーカーの所得水準が上がれば少子化対策としても機能します。

なお、肝心なのは補助金が全額個々の労働者に支払われること。派遣会社。よって派遣の求人広告はこのような表記になろうかと。

時給1,650円+500円(政府補助金)

必要な予算は事務経費等を除けば初年度2兆円。景気動向を見て段階的に縮小していくといいでしょう。それに一部は税金として国庫に帰ってきます。

東京一極集中の是正

出生率が最も低い東京に人口を集めれば少子化が進むのは必然です。何しろ住宅事情が厳しく通勤もハードになりがちだから。

また、仮に何らかの方策で出生数が向上したとしても、たちまち待機児童の問題が再燃します。東京は長らく商業優先で発展してきたため保育や介護といった面の持続性が担保されていません。

その一方で娯楽は充実しているので若い女性らに「子供を持って親子ともどもしんどい思いをするよりも自由に生きた方がいい」という価値観が広まるのも当然でしょう。

よって少子化対策を本気で考えるなら、若い女性が東京に出なくても地方の中核都市で満足な職と収入が得られるように持っていくべきです。

具合的には官公庁の一部、大学や企業の移転を促すことが必要でしょう。

旧統一教会の報道は容疑者の思う壺?

CULT

連日、テレビの情報番組などで旧統一教会関連の批判報道が続いていることに「教会への恨みから安倍元総理を暗殺した山上容疑者の思う壺だ」という意見がありますよね。先日もパトリック・ハーラン氏が日曜日のお昼の番組でそう述べていました。

でも、私はそれは違うと思います。山上容疑者の意図した通りであろうがなかろうが重要な社会問題なら継続的に報じるべきです。

例えば、近年「死刑になりたかった」と殺人を犯す人がポツポツ現れます。でも犯人の願いを叶えないために死刑を回避するのは筋違いです。それだと凶悪殺人事件を起こしても「死刑になりたかった」と供述しさえすれば死刑を免れ、国民の税金で生きながらえることになってしまうので。現状の日本に死刑制度があり、刑法に乗っ取って死刑相当という最終的な判決が出たなら、犯人の言動がどうであれ執行されなければなりません。

別の例だと、かつてセキュリティの観点から羽田空港の導線の不備を訴えたものの、当局から相手にされなかったためにハイジャックを実行した犯人がいました。でも、犯人の思う壺だからと空港のセキュリティ強化を行わないなんて話はないはずです。

本件、第二の山上容疑者を出さないためにも旧統一教会に限らず「反社会的な活動で裁判となり敗訴が3件以上重なれば宗教法人格を失う」といったルールが確立されるまで報じ続ける価値はあると思います。

竹中平蔵氏とダンジョン飯

ダンジョン飯という漫画があります。とても人気でTVアニメ化も発表されました。

物語の舞台はダンジョンズ&ドラゴンズロード・オブ・ザ・リングのような西洋系のファンタジー世界。とある理由からライオス・トーデン率いる冒険者パーティがダンジョンの攻略を目指します。この作品の見どころの一つは魔物を倒したら丁寧に調理して食べた感想を述べるまでの描写。架空の食材を使っておきながらグルメ漫画としても成立しているところが見事です。

以下、ネタバレを含むのでご注意を。

ダンジョン飯12巻

ダンジョン飯のキーファクター

物語には悪魔が登場し、ダンジョンの主のあらゆる望みを叶える替わりにその人の欲を食らいます。人の生涯はさまざまな欲求に基づいており、食欲のように本能まで食われれば自力では生きられません。悪魔も本質的に邪悪な存在ではないものの、人の欲を好むため、たとえダンジョン主が善良な思いで力を振るっても結局は破滅をもたらします。

そこで思い出しました。竹中平蔵氏もそんな感じなのかなと。もちろん彼が悪魔だと言いたいわけではなく、良かれと思ってやったことが仇をなすことになったという。

派遣法改正の余波

およそ四半世紀前、バブル経済が崩壊し、グローバル競争にさらされた日本経済は変化を迫られました。ただし、経済界が求める解雇規制の緩和は政治的なハードルが高すぎて実現不可。何しろ世の中には雇われる方が圧倒的に多いし、労働者は自身のキャリアが会社都合で途絶えることを望まないので。

よって竹中氏も深く関わった小泉政権では、企業が正社員の首を切れるようにする代わりに首を切れる労働力を容易く得られるようにしました。そう、派遣法の改正です。竹中氏はその後もことあるごとに「もはや企業は首の切れない労働者なんて雇えない」と発言しているので彼が意図的に行ったのは間違いありません。

結果、派遣労働者の数は増えるも大半がワーキングプアだし、正社員の賃金も上がらなくなりました。当然です。企業は正社員の欠員を派遣社員で埋めれば人件費を削減できるのだし、正社員が年収アップを狙ってスキルを磨いても同業他社が中途採用より派遣の活用を望むなら転職は不可。生活防衛のために会社にしがみつくので経営者は賃上げする必要がありません。

そればかりか企業で長年キャリアを積んだものの健康問題や親の介護で離職した人が再就職しようにも正社員の枠がなければ派遣に身を投じます。ならば企業は中途採用を控えることで、十分にスキルを持った即戦力人材を派遣社員として格安で雇えることだってあります。

実際、私がパソナのエージェントに聞いた話だと、私の古巣でもある印刷業界では以前ならDTPのスキルを持っていれば派遣社員として採用されていたものの、もはや「雑誌」「広告」「カタログ」といった個別分野における経験値がないと無理なのだと。つまり、専門性の高いベテラン人材をアルバイトのような条件で雇うのが常態化指定いるわけです。

これらの流れを作った首謀者の代表格が竹中平蔵氏であり、見事にデフレを助長し、ワーキングプアを増やし、正社員の賃金の上昇も抑止してしまいました。

いや、繰り返すけど、だから竹中氏が悪魔だと言いたいわけではありません。彼とて正しいと思ったことを政府に働きかけ、実現させたのでしょう。それが不測の事態を招いてしまっただけで。

是正策

その竹中氏は以前、テレビの番組で「派遣法の改正自体は正しかったが、セーフティネットを張らずにやったのが拙かった」と言っておられました。つまり、やるべき答えはとっくに出ているわけです。「派遣分野の再規制」もしくは「派遣で働いてもワーキングプアとならないよう賃金水準を上げる」だと。かつて派遣の労働単価は高かったわけだし。

また、派遣社員に似た立場として非正規公務員という人達もいます。両者を合わせれば200万人規模だから人口ランキング16番目の長野県の総人口相当、かなりのボリュームです。よって政策としては「フルタイムワーカー向けの最低賃金制度を新たに設けて高めに設定する」のがいいでしょう。

世の中には自由競争信者も少なからずいるけど、自己責任の社会はかえって高くつくものです。例えばワーキングプア問題を放置すれば、いずれ生活保護受給者の激増といった形で跳ね返ってきます。結果、増税だったり公共サービスがカットされるわけです。

それに低所得労働者とて消費者なのだから、彼ら彼女らの所得水準を底上げして消費市場の戦力とし、少子化の対策とした方が絶対に得です。

凶弾と教団

先の参議院選の直前に安倍元総理が凶弾に倒され、犯人が旧統一教会信者の2世だったことで、以後、教団と政治、とりわけ自由民主党の国会議員とのつながりが取り沙汰されるようになりました。

気になるのはその後の自民党の煮え切らない姿勢。教団が暗殺を企てたわけではないにせよ、教団がらみで安倍元総理という歴史上も稀有な存在を失ったのだから、さぞ強硬な態度に出るかと思いきや、どうにも教団に配慮したかのような発言が続いています。

それだと国民受けがすこぶる悪いことぐらい党の面々は承知なはず。おそらく国民の多くが「この際、教団とはキッパリ手を切り、旧統一教会に限らずトラブルの多い宗教団体からは無条件に宗教法人格の剥奪となるよう法整備する」という展開を望んでいるし、そうしなければ岸田政権、並びに自民党の支持率はひたすら下がっていくことでしょう。

だとすると、やらないのではなく、できないのではないかと。教団からの逆襲が恐ろしくて。

例えば、かの教団から宗教法人格の剥奪となれば、もはや日本での活動が難しくなるので教団側は最後っ屁とばかりに自民党との過去のつながりを洗いざらい公表するかもしれません。結果、党がひた隠しにしたい新しい情報があれこれ出て、党の個々の国会議員が否定した内容とも矛盾し極めて拙い状況に追い込まれるのが分かりきっているとか。

だったらこのまま黒に近いグレーな状況を続けて批判を受けてでも、しらを切りとおす腹だと。

参院選に勝って黄金の三年間に突入した岸田政権ですが、下手すると自由民主党の存亡にも関わる重大局面に差し掛かっているのかもしれません。