PDF比較アプリ一覧 2021

2年前に書いたPDF比較アプリ一覧というエントリに今でもアクセスがあるのですが、この2年間で私の知見も違ってきたためここに書き直します。

なお、他社製品を試す時間も余力もないので、多くは私の過去の知識、もしくはWebサイトを拝見した上での印象です。よって製品探しの参考資料程度に捉えていただければいいかと思います。

ということで改めて私が知るPDF比較アプリをまとめてみました。

おすすめ5選

まず、活用イメージが容易に想像でき、実用性が見込めるのが以下の5製品です。

Adobe Acrobat Pro DC

提供: Adobe
価格: 1,738円/月(サブスクリプション)
対応OS: Mac/Windows
比較方式: 解析比較
USBドングル: なし
DTP原稿作成機能: なし(手作業で可)
品質証明作成機能: なし(手作業で可)

ドキュメンテーション業界人御用達。普及率は圧倒的なので、これで事足りる方なら他のアプリは不要ですね。

ただし、PDF比較の機能は動作が重く、比較結果を解読するのも少々厄介な印象があります。使い勝手もバージョンアップのたびに変わりがちです。

また、PDFを解析して比較する方式のため、アルゴリズムが想定しない変更箇所は見逃します。

Proof Checker PRO

提供: 株式会社Too 大阪支社
価格: 100万円超
対応OS: Mac/Windows
比較方式: 解析比較/ヴィジュアル比較
USBドングル: あり
DTP原稿作成:
品質証明作成:

ドキュメンテーション業界で圧倒的な信頼を得ている最強PDF校正ソフトウェア。Acrobatよりも高い精度の比較結果を返してくれる印象です。ただし、お値段が。個人の制作者には全く手が出ません。

また、コピープロテクトがあり専用のUSBドングルを装着したPCでしか起動できないため、一度に一人ずつしか使えません。USBドングルはテレワーク用に誰かが持ち帰ることもできないでしょう

なお、以前のバージョンではPDFを解析して比較する方式だけでしたが、現在のバージョンではPDFページを画像としても比較できます。

BitMatch Premium

提供: エコーインテック株式会社
価格: 86,900円(税込)/1ライセンス
対応OS: Mac/Windows
比較方式: ヴィジュアル比較/テキスト比較
USBドングル: あり
DTP原稿作成: あり(次行程への申し送りPDFを作成可能)
品質証明作成:

解りやすい機能紹介動画がWebサイトに掲載させれているので、気になる方はご覧ください。

ページまたぎのテキスト比較やdiffによるテキスト比較もできるようです。

新バージョンでは次の行程への申し送り付きPDFを描き出せるようになっています。

なお、コピープロテクトがあり専用のUSBドングルを装着したPCでしか起動できないため、一度に一人ずつしか使えません。USBドングルはテレワーク用に誰かが持ち帰ることもできないでしょう

ただし、私がかつて在籍した制作会社では導入しておらず馴染みがないので、多くを語ることは差し控えます。

Before After CV

提供: 株式会社 シーティーイー
価格: 個人版 88,000円(税込)/サーバー版 407,000円(税込)
対応OS: Mac/Windows
比較方式: ヴィジュアル比較
USBドングル:
DTP原稿作成:
品質証明作成:

印刷会社における製版の現場で使われていると伺っています。

誰でもダウンロードできる製品マニュアルを読む限りではコピープロテクトのUSBドングルは採用してなさそうですが、個人版のライセンスが特定のPCに固定されるのか、それともシリアル番号を知る特定の個人に紐付けられるのかは解りませんでした。もし後者なら自宅のPCにもインストールしてテレワーク時も使えて便利そうです。

なお、私が在籍した制作会社では導入しておらず馴染みがないので、多くを語ることは差し控えます。

XOR for Mac/Windows

提供: FROGFISH
価格: 2,000円(税込)/月(サブスクリプション)
対応OS: Mac/Windows
比較方式: ヴィジュアル比較
USBドングル: なし
DTP原稿作成: あり
品質証明作成: あり
XOR for Mac Version2.0のアイコン

XOR

リアルタイムPDF比較ビューワ

2,000円(税込)/月
(サブスクリプション)

  • Download_on_the_Mac_App_Store_Badge_ja
  • Microsoft Store Badge

当方が提供する製品。5製品の中では最も安価なアプリです。

「高度だけど使いこなすのが大変なアプリではなく、必要十分ながら単純明快の方を目指す」という思想から搭載機能を必要最小限に絞り込んでおり、難しい設定項目もないので誰でもすぐに使いこなせるでしょう。

最新バージョン(Mac版)では、クライアントに提出する品質証明(修正を依頼された箇所以外どこも変えてないと証明するPDF)を書き出せます。同じ機能を持つWindows版も追ってリリース予定です。

なお、コピープロテクトのUSBドングルはなく、同じアカウントなら会社でも自宅でもお使いいただけます。

月額2,000円のサブスクなので、制作スタッフ全員分を導入すれば、誰もがいつでも存分にPDFを比較でき、品質確保と時短によるコストカットに繋がります。解約や再契約も自由です。

これらの内、どれが最適かは個々の業務内容、対象の制作物、予算、スタッフ構成、テレワークの有無などによって違ってくるはずですが、もし意中の製品がまだないなら取りあえずXORをお試しいただきたく思います。その上で、XORに満足できなければ他の製品を検討するといいでしょう。

XORには1ヶ月の無料試用期間があり、期間終了後も2,000円/月のサブスクリプションでお使いいただけるため、最適な製品を探す上でコスト的に有利です。

その他

上記5製品の他にも多くの製品があるものの、私の経験と知識に照らし合わせた限りでは活用イメージが湧かないので、下記の通り簡単な紹介にとどめます。

DiffPdf

価格: $160(オープンソース版は無料?)
対応OS: Mac/Windows
比較方式: 解析比較

一説ではAcrobatよりも高精度とも言われるものの、私が試した限りでは違いは見受けられませんでした。逆に言えば「Acrobatは無料のReaderで事足りる。PROの各種機能は要らない」という方にはいいかもしれません。

WinMerge

価格: Free
対応OS: Windows
比較方式: テキスト抽出比較

いわゆるDiffですね。無料なのでテキストオンリーのPDF比較には最適でしょう。

PDF24 Tools

価格: Free
OS: -(Webサービス)
比較方式: テキスト抽出比較

無料のWebサービスという点が素晴らしいです。モード選択に「ビジュアル」があるものの私の環境では選べませんでした。また、比較結果を読み解くのはコツが要りそうです。

diff-pdf

価格: Free
OS: -
比較方式: ヴィジュアル比較

XORと同じ目的のアプリです。GPLのオープンソースなのでソフトウエア開発やコマンドラインの利用に精通している人にはいいかもしれませんが、私はセットアップの途中でギブアップしました。

Brava Desktop

価格: 37,500円〜(画像対応版/マークアッププラス)
OS: Windows
比較方式: ヴィジュアル比較・テキスト比較

Webページを眺めた感じではCAD向けの製品という印象です。機能構成ごとにたくさんのエディションに分かれていて価格も違います。

Antenna House リグレッションテストシステム

価格: 要問い合わせ
OS: Windows/Linux
比較方式: ヴィジュアル比較

PDF(出版物、画像、ビジネス文書など)を高速かつ自動で比較するシステムです。

PDF比較Finder

価格: 198,000円〜
OS: Windows
比較方式: ヴィジュアル比較

おそらくCADなどの図面や帳票を比較することが目的のアプリです。

dproofs

価格: 1,980円(スタンダードプラン)
OS: -(Webサービス)
比較方式: ヴィジュアル比較

PDFを比較して差分を表すファイルを作ってくれるWebサービス。変換エンジンは共有らしく利用者が多ければ順番待ちが発生するようです。

「どこも変えてない」が優れているわけ

私が制作者だった3年前、クライアントへの校正提出の際は、「今回の修正で変更した箇所」を示す注釈をつけたPDFを添付していました。

でも現役の制作者によると、今クライアントが求めるのはそれではなく、「修正を依頼した箇所以外どこも余計に変えてない」という資料とのこと。なるほど。

「どこを変えたか」と「どこも余計に変えてない」は裏表の関係なので、前者でも同じ目的を果たせそうなものですが、そうではありません。というのも「どこを変えたか」が指し示すのは制作者が把握している変更箇所なので、無意識に変えてしまってたり、レイアウトの都合上、要素を一時的に移動させて修正した後に戻し忘れた場合などは漏れているかもしれないから。

例えばこちらのPDFのペアがあったとします(クリックで拡大表示)。左が修正前、右が修正後のページです。

比較するPDFページのペア

変更箇所は二つ。

  • ページ右上の「エスカ(Esca)」という文字
  • ページ下半分のテキストの分量

でも、もし制作者が「エスカ(Esca)」の部分を見落としたら、「どこを変えたか」のPDFはこうなります。

変更箇所を示した例

四角形がついてないため、クライアントに提出した際に「エスカ(Esca)」の変更は存在しなかったことになってしまいます。その変更が不適切なものであれば重大な申請漏れです。

対して、XORで修正前と後のPDFを読み込んで「透かし表示の書き出し」で書き出せばこの通り。

透かし表示のPDF

赤い囲みは同じでも、ページ右上に「エスカ(Esca)」という青い文字が見て取れます。制作者が気づけば提出前に直せるし、万が一そのまま提出してしまってもクライアント側で気づいてもらえるでしょう。

そう、「透かし表示の書き出し」なら制作者の先入観や見落としに影響されることがなく、「どこも余計に変えてない」という資料になるわけです。

先日リリースしたXOR for Mac Version 1.5は、わずかな操作だけで「どこも余計に変えてない」というPDFを書き出せます。

今日も下版はできません! 第6話

『今日も下版はできません!』という印刷業界漫画が業界に近い人の間で人気ですよね。まったくもってその通りなので経験者の共感を呼ぶのでしょう。『いとしの印刷ボーイズ』にも収録されているのかな。

今さらだけど、その第6話には「めくり合わせ」あるいは「アオリ」と呼ばれるテクニックが取り上げられています。私が以前に所属していた制作現場では「ペラペラ」と呼んでいました。

今日も下版はできません! 第6話/印刷業界では“寄り目”を応用して印刷物をチェックする?
「今日も下版はできません! 第6話/印刷業界では“寄り目”を応用して印刷物をチェックする?」から拝借

そう、その制作現場では、長らくプリントアウトした修正前と後の校正紙を用いて手作業でやっていたものの、とあるPDF比較アプリ(デジタル校正ツール)が導入されてからはPCの画面上でシミュレートできるようにな離ました。

ただし、そのアプリはUSBドングルを刺したPCでしか使えないため順番待ちが発生し(使いたい時に限って、他の人と提出期限が重なりがち)、そんな時はベテラン編集者が優先的に使い、DTPオペレータや外注スタッフは遠慮するのが当然のような空気感も醸成されていました。

まあ、そのアプリには高度な機能も多く搭載されていて開発には莫大な費用がかかっているのだろうから、ドングルによるコピープロテクトは必然です。違法コピー品が出回ろうものなら、とんでもない損害になりましょう。

とはいえ、私がその制作現場を離れてからは当然ながらアプリを使えなくなりました。個人で買おうにも到底手が出せない価格です。

よって代替品としてXORを自身で開発し、リリースすることに。機能は必要最小限ながらドングルなしで使える安価なPDF比較アプリの需要はあるだろうと。とりわけ小規模制作会社やフリーランスの制作者などに。

また、比較的大きな制作現場においても、高性能・多機能なアプリを導入して皆でシェアしながら使うより、XORをスタッフの人数分導入して各人がいつでも存分に使える方が並行作業ができて有利な場合もあろうかと。

ちなみに『今日も下版はできません!』のページには間違い探しの絵(下図)が載っています。これ、全10箇所の違いはXORを使えばあっさり見つかります(左右の画像を別々にPDF化する手間は必要だけど)。

今日も下版はできません! 第6話/印刷業界では“寄り目”を応用して印刷物をチェックする?のおまけ画像(間違い探し)

改行したらどうなる?

XORにおけるPDF比較に対して時おり訊ねられるのが「例えばページの途中で改行があった場合、どうなるか?」というもの。「”改行された(それ以降は内容が変わらずに移動された)”と知らせてくれる」といった答えを期待してのものでしょうが、残念ながらそうはなりません。XORの比較はページを画像として比べるので改行が発生した箇所以降はすべて差分として表示されます。たまたまピッタリ合致した箇所を除いては。

よって「どこがどのように変わったか?」を望むのであれば、PDFを解析して比較するProof Checker ProのようなPDF比較アプリ(デジタル校正ツール)が相応しいでしょう。あるいはAcrobat Proか。

対してXORは「どこが変わったか?」だけを示します。これは私が制作者として働いていた際にそれでも十分有益だと確信したためです。「どこが変わったか?」は裏を返せば「どこが変わっていないかを特定できる」ということです。初校→再校→三校と段階的に完成を目指す制作では「どこかに無用な変更が生じていないか?」を簡単に確かめられるだけでも疑心暗鬼のストレスから解放され、時間短縮・コストカットに繋がります。

それに、もしアプリが「どのように変わったか」まで示してくれても、それが「その変更は意図した通りか?」は人間が確認してやる必要があります。だったら「どこが変わったか?」だけでもよかろうと。

そもそもPDFのデータを解析して比較するようなアプリの開発には膨大な費用がかかるので、月額2,000円のサブスクリプションで提供するのは到底不可能です。

xor concept animation
XORはPDFのデータを解析せずビジュアル的に比較します

電動自転車的なアプリです

先日、とあるドキュメント制作会社の方からお問い合わせをいただきました。「説明動画を見てXORのことが気になっているけど、大量ページで写真を目一杯扱うような制作案件にも対応できるか?」と。具体的には商品カタログとかなのかな。

私も否定的な発言はしたくなかったけど事実は誤魔化せないので「残念ながらそのような用途には不向きです」と答えざるを得ませんでした。大規模な制作物の場合、PDF比較であってもある程度は自動化できないと追いつかないですよね。

そう、XORは「機能を最小限に抑える代わりに誰でも導入できるように」をテーマとしたアプリ。いわば電動アシスト付き自転車的な方向性です。

移動や運搬の手段としての総合力だと自転車は自動車には到底敵いません。大人は同時に一人しか乗れず、圧倒的に遅いし高速道路の利用は不可。エアコンもなければ雨風にも弱く、動力は人力です。前カゴや荷台の積載容量もたかが知れています。

その反面、自転車は歩道の走行も事実上容認されていて保育園への子供の送迎や日々の買い物用途に限れば有利とも言えましょう。運転にも難しい技量は必要ありません。

そして何よりも自転車は圧倒的に安価。ガソリン代や税金などの維持費もかからず、駐輪スペースは賃貸住宅でも無料です。

何が言いたいかというと、PDF比較アプリ(デジタル校正、検版ツール)にも向き不向きがあるということ。ページが膨大でPDFの比較作業を自動化できなければ追いつかない制作案件ではProof Checker Proのような高機能・高性能アプリのご利用が最適だと思います。

他方で、XORは「手作業でも事足りる制作案件向き」です。せいぜい数十ページ規模の。例えば名刺、帳票フォーマット、チラシやリーフレット、家電や建材の取扱説明書などかな。

使い方も「差分を見つける」というよりは「無用な変更が発生していないことを確認する」という目的に有益です。私も何度も痛い目にあっているけど、DTPではときどき予想外の変更が紛れ込むので