
先の参院選では与党が敗北、過半数割れし、野党が主張する減税が実現に近づくかと思いきや、石破首相が散々ごねた末に辞任を表明して自民党総裁選に突入のメディアジャック。ガソリン税暫定税率の廃止はもちろん与党が主張した2万円の現金給付すら宙に浮いた形です。
総裁選の立候補者がまだ出揃ってないし、それぞれがどんなことを主張して総裁の座を争うのはかはわからないけど、目下最大の課題は「日本経済の長期停滞の打破」です。経済状況さえ好転すれば物価の上昇に賃金が追いつき、少子化のペースも改善される可能性があります。
減税か給付か?
経済政策として、野党は減税による家計支援を重視する傾向が強く、与党は給付策を打ち出すことが多かったわけだけど、私はどちらにも与しません。
例えば、消費減税が実現すればありがたい気がするものの、仮に5%に戻されたとしても年間100万円消費する人は5万円の軽減にしかなりません。いや、100万円の中には食品が多々含まれているだろうから実際はもっと少ないはず。家賃はそもそも消費税の対象外です。
大型消費を控えている人には消費減税は嬉しいだろうけど、中低所得者の生活支援、そして内需拡大による経済振興には効果が薄いのではないかと。
社会保険料の軽減も財政に負担をかけるようだと結局は自分たちに跳ね返ってきます。
とはいえ現金給付はよく言われるように、使われずに貯蓄やローン返済に回されかねません。加えて行政側の手間と事務コストもかかります。使用期限が決まっている電子マネーなんかで給付すればいいかもしれないけど、そのための仕組みが整っていません。
つまり、当面の負担軽減ではなく永続的に内需を盛り立てたり将来不安を払拭するには、少々の減税や社会保障費の軽減、給付では効果が薄いのではないかと。
賃上げが最適
そこで私が最も妥当に思うのが賃上げです。
具体的には「フルタイム就労者の最低賃金の設定」と「時限的な中小企業への賃上げ補助」をセットで実施することが最適でしょう。
現状では、主に派遣社員のような非正規の低賃金就労者の存在が、中小企業の正社員の賃上げを抑止する要因になっています。正規→非正規の代替性が高く、また正社員が離職した場合に生活基盤を維持しにくいことから企業にとっては「正社員を引き留めるために高い賃金を払う必要性」が低く映ってしまうので。
そこでフルタイム就労者への最低賃金設定(例えばパートタイム向けの1.8倍といった具合の)は正規・非正規を問わず賃金水準の底上げに繋がり、労働市場全体の賃金改善に寄与し、消費拡大や労働移動の円滑化も進んで経済の活性化が期待できます。
加えて、将来不安が和らぐことで出生率改善にもつながる可能性があります。
こうした取り組みは消費税減税や社会保険料負担軽減といった他の選択肢に比べても政治的に実現しやすく、将来不安の軽減や持続的効果も期待できる点で優れていると思います。
非正規フルタイムの賃上げ、責任者は誰?
正社員の賃上げは企業経営者の判断に委ねられています。
一方で、パート・アルバイトなど被扶養者を主な対象とする短時間労働には最低賃金が設けられ、近年は過去最大幅の引き上げも決まりました。つまり責任者は政府です。
では、派遣社員をはじめとする非正規のフルタイム従事者についてはどうでしょう?その大半は筆頭稼ぎ頭でもあるのに、現状、最低賃金さえ上回っていれば合法とされ、低賃金のまま放置されています。その結果、低賃金雇用が固定化し、新たな低賃金層を生み出す悪循環が続いています。
「低賃金労働には応募しなければいい。条件が悪い求人は淘汰される」という声もありますが、経済的な余裕がない人は選り好みができず、働き続けざるを得ません。このままでは、非正規フルタイム従事者の賃金水準は人手不足や物価高の今後においても下がる恐れすらあります。
よって、フルタイム労働者に対しての賃上げも政府の責任であるべきです。社会全体の消費や生活安定に直結する問題であり、放置すれば経済成長や将来の生活基盤にも悪影響が及びます。
その解決策として、最低賃金を「パートタイム(一類)」と「フルタイム(二類)」の二階建てに分けることは必然であり、合理的かつ最もシンプルな手法だと考えます。
富裕層や正社員への恩恵
フルタイム労働者の最低賃金設定と中小企業への時限的賃上げ補助は主に中小企業や非正規の方にメリットをもたらす政策であり、富裕層や大企業の正社員には直接的な恩恵はないでしょう。
でも、経済全体の底上げにつながるため、消費の拡大や企業業績の改善、労働市場の健全化、少子化ペースの改善などを通じて長期的には経済の安定が期待でき、結果として富裕層や大企業正社員にも恩恵があります。
財源
個人が気を回すことではないけど、中小企業への時限的賃上げ補助への財源が気になる人もいるかもしれません。
でも、補助でフルタイム労働者の賃金が上がれば消費が増え、企業の業績も改善して経済全体が活性化すれば、法人税や所得税などの税収増で財政負担をある程度相殺できる可能性があります。
さらに、経産省の過去の賃上げ補助や雇用調整助成金の前例もあり、短期的な財政負担なので、実現可能性のハードルは高くないはずです。
中小企業に求められるもの
これまで低賃金労働に頼ってきた企業は低賃金で雇用されてきた派遣社員や契約社員などのフルタイム労働者に最低賃金以上を支払う必要があるものの、差額は時限的ながら政府補助金として還付されます。
そして、賃上げ補助金を申請する中小企業は補助の期限内に派遣や低賃金フルタイム労働への依存度を下げる経営体制を整備するか、補助後も賃金水準を維持しつつ派遣活用を続けられる収益構造を作る必要があります。
大企業は?
大企業は補助の対象外なので派遣社員などを使い続けるなら人件費が増加しますが、経済全体の底上げによる売上増や業績改善の恩恵を受けやすくなります。
それに、派遣社員が担ってきた業務をAIやRPAで代替することで生産性を上げつつコストを抑えたり、業務をパート・アルバイトで回せるように設計するといった取り組みで乗り切るのもありです。
今や派遣社員の約半数が大企業で働いています。コスト削減は企業の本能だとしても、経営体力のある大企業までが低賃金の非正規雇用に過度に依存すれば、合成の誤謬によって経済全体の活力が損なわれかねません。したがって、低賃金労働力の活用には一定の制約や是正措置が必要であり、非正規フルタイム従事者の賃上げがその有効な手段となるでしょう。
派遣会社は?
派遣会社は派遣社員に最低賃金以上を支払う義務があります。増額分は派遣先企業から上乗せで支払われます。
派遣会社も最低賃金未満で雇っている社員がいれば、その賃上げ分は政府補助の対象です。
ただし、派遣業界では通訳やシステム開発など専門性の高い分野の人材を派遣できる企業を中心に再編や縮小が進むでしょう。通訳にしても一般的な場面はAI翻訳で代替可能になりつつあります。
最低賃金が上がって割安ではなくなったとしても有期雇用の有用性を重視して派遣社員を使い続ける企業はあるはずですが、人を右から左に動かしてマージンを受け取るような業態では生き残れず、多くが淘汰されるでしょう。
将来的にはフリーランサーの仲介者的な役割に移行するなど、従来型モデルからの変容が避けられないかもしれません。
派遣社員は?
派遣社員も一概に報われるわけではないでしょう。待遇改善で低賃金は解消されても、柔軟な働き方を求めて派遣を選んでいた人にとっては選択肢が狭まるかもしれません。
また、派遣→直接雇用の機会は増えても年齢や選考の厳しさで不利になる人は相変わらず出るはずだし、結局はスキルや経験がものを言う場面が増えるかもしれません。
でも、それは本来あるべき姿ですよね。
介護離職者への影響
親の介護で離職し、数年後に再就職しようにも年齢の壁で正社員復帰は叶わず派遣に甘んじて年収を数百万円落とすのは定番です。
2030年には団塊の世代全員が80歳以上となります。80歳時点で4人に1人、85歳では2人に1人が要介護ですが、とりわけ東京では介護人材の成り手が乏しく、大規模施設も建てられないため在宅看護が主流にならざるを得ず、介護離職者が激増する恐れがあります。
加齢は不可避だし要介護の予防も難しいので、せめて介護期間明けの経済的な不安だけは軽減したいところです。
転職希望者は?
転職や生き方を変えたい正社員には「ここで離職しても次の職場でうまくやっていかれるかはわからない」あるいは「住宅ローンや子供の教育費を考えると冒険的なことはできない」といった思惑が働き、なかなか踏み切れない人も多いでしょう。
あるいは会社都合などで離職を余儀なくされた人は否応なく再就職を強いられます。
でも、望む再就職が叶うまで仮に非正規で働いても収入が極端に下がらなければ転職に積極的になれます。
地方への影響
賃金底上げによる消費拡大や人材定着を通じて、地方の地域経済の活性化にもつながる可能性があります。
加えて、地方では住宅環境が子育てに適していても職の選択肢が限られているため、若い人材が東京などに流出しやすい現状がありますが、地方での就業機会が改善されれば、地方から都市への人材流出を抑え、少子化の進行を緩やかにする効果も期待できます。
解雇規制への影響
労働市場の流動性を高めるべく解雇規制の緩和を求める声もあるけど、現状のまま解雇規制を緩和すると経営者側の力が一方的に増します。
仮にそれが法政化され、企業が金銭解雇で従業員を辞めさせたとして、浮いた人件費が新たな人材の確保や他の従業員に還元される保証はなく、企業のスリム化ばかりに寄与してしまう恐れがあります。
また、極端な例だと経営者は特定の従業員に「割り増し退職金を受け取って辞めるか、賃下げを飲むか」という選択を迫ることもできてしまいます。
でも、離職時の経済的なデメリットが軽減されれば解雇規制の緩和など、より柔軟な労働市場改革も現実味を帯びてくるでしょう。
同一賃金同一労働で解決できないか?
中には「同一労働同一賃金を企業に厳守させれば解決するはず」と考える人がいるかもしれないけど、それは無理でしょう。企業は「業務が同じでも責任範囲が同一ではない」といった抜け道を簡単に作れてしまうので。
また、例えば、企業のカスタマーサービス部門で、管理者を正社員が担い、コールセンター業務は派遣社員が務めるといったケースでは同一労働とはみなされません。
つまり、仮に同一労働同一賃金が法制化されたとしても「正社員にカウンターパートがいないから非正規の労働対価は低いままでいい」では課題の解決にはつながりません。
インフレ圧力
賃金が底上げされれば短期的には一定の物価上昇が見込まれるものの、消費拡大に裏打ちされた健全なインフレなので、長年のデフレ停滞を脱し、安定的な成長軌道に乗るためにはむしろ歓迎すべき動きだと言えるでしょう。
低賃金のフルタイム従事者にしてみれば、せっかく賃上げされたのに物価もまた上がるのは残念だろうけど、そこは受け入れて、各々が頑張ってもらうしかないです。
まとめ
以上は私個人が考えた最適な労働・経済政策です。早い話が「一時的な減税や給付よりも、中低所得者の底上げにつながる賃上げの方が高い効果と持続性も期待できるはずだ」と。
次の自民党総裁、そして内閣総理大臣が誰になるかはわからないけど、この案に即した政策が検討されることに期待します。