ダンジョン飯という漫画があります。とても人気でTVアニメ化も発表されました。
物語の舞台はダンジョンズ&ドラゴンズやロード・オブ・ザ・リングのような西洋系のファンタジー世界。とある理由からライオス・トーデン率いる冒険者パーティがダンジョンの攻略を目指します。この作品の見どころの一つは魔物を倒したら丁寧に調理して食べた感想を述べるまでの描写。架空の食材を使っておきながらグルメ漫画としても成立しているところが見事です。
以下、ネタバレを含むのでご注意を。
ダンジョン飯のキーファクター
物語には悪魔が登場し、ダンジョンの主のあらゆる望みを叶える替わりにその人の欲を食らいます。人の生涯はさまざまな欲求に基づいており、食欲のように本能まで食われれば自力では生きられません。悪魔も本質的に邪悪な存在ではないものの、人の欲を好むため、たとえダンジョン主が善良な思いで力を振るっても結局は破滅をもたらします。
そこで思い出しました。竹中平蔵氏もそんな感じなのかなと。もちろん彼が悪魔だと言いたいわけではなく、良かれと思ってやったことが仇をなすことになったという。
派遣法改正の余波
およそ四半世紀前、バブル経済が崩壊し、グローバル競争にさらされた日本経済は変化を迫られました。ただし、経済界が求める解雇規制の緩和は政治的なハードルが高すぎて実現不可。何しろ世の中には雇われる方が圧倒的に多いし、労働者は自身のキャリアが会社都合で途絶えることを望まないので。
よって竹中氏も深く関わった小泉政権では、企業が正社員の首を切れるようにする代わりに首を切れる労働力を容易く得られるようにしました。そう、派遣法の改正です。竹中氏はその後もことあるごとに「もはや企業は首の切れない労働者なんて雇えない」と発言しているので彼が意図的に行ったのは間違いありません。
結果、派遣労働者の数は増えるも大半がワーキングプアだし、正社員の賃金も上がらなくなりました。当然です。企業は正社員の欠員を派遣社員で埋めれば人件費を削減できるのだし、正社員が年収アップを狙ってスキルを磨いても同業他社が中途採用より派遣の活用を望むなら転職は不可。生活防衛のために会社にしがみつくので経営者は賃上げする必要がありません。
そればかりか企業で長年キャリアを積んだものの健康問題や親の介護で離職した人が再就職しようにも正社員の枠がなければ派遣に身を投じます。ならば企業は中途採用を控えることで、十分にスキルを持った即戦力人材を派遣社員として格安で雇えることだってあります。
実際、私がパソナのエージェントに聞いた話だと、私の古巣でもある印刷業界では以前ならDTPのスキルを持っていれば派遣社員として採用されていたものの、もはや「雑誌」「広告」「カタログ」といった個別分野における経験値がないと無理なのだと。つまり、専門性の高いベテラン人材をアルバイトのような条件で雇うのが常態化指定いるわけです。
これらの流れを作った首謀者の代表格が竹中平蔵氏であり、見事にデフレを助長し、ワーキングプアを増やし、正社員の賃金の上昇も抑止してしまいました。
いや、繰り返すけど、だから竹中氏が悪魔だと言いたいわけではありません。彼とて正しいと思ったことを政府に働きかけ、実現させたのでしょう。それが不測の事態を招いてしまっただけで。
是正策
その竹中氏は以前、テレビの番組で「派遣法の改正自体は正しかったが、セーフティネットを張らずにやったのが拙かった」と言っておられました。つまり、やるべき答えはとっくに出ているわけです。「派遣分野の再規制」もしくは「派遣で働いてもワーキングプアとならないよう賃金水準を上げる」だと。かつて派遣の労働単価は高かったわけだし。
また、派遣社員に似た立場として非正規公務員という人達もいます。両者を合わせれば200万人規模だから人口ランキング16番目の長野県の総人口相当、かなりのボリュームです。よって政策としては「フルタイムワーカー向けの最低賃金制度を新たに設けて高めに設定する」のがいいでしょう。
世の中には自由競争信者も少なからずいるけど、自己責任の社会はかえって高くつくものです。例えばワーキングプア問題を放置すれば、いずれ生活保護受給者の激増といった形で跳ね返ってきます。結果、増税だったり公共サービスがカットされるわけです。
それに低所得労働者とて消費者なのだから、彼ら彼女らの所得水準を底上げして消費市場の戦力とし、少子化の対策とした方が絶対に得です。