PDF比較で「どのように変わったか」は本当に要る?

Adobe Acrobat DCのPDF比較機能を使うと、修正された新旧PDFの間で「どこがどのように変わったか?」をリポートしてくれます。解析精度が完璧ではない点はひとまず脇に置いて、ここでは問題提起をしましょう。

  • 「どこが」はともかく「どのように変わったか」は本当に要るの?

例えば下図のようなDTP原稿があったとします(画像のクリックで拡大表示)。

DTP原稿の例

これに対してDTP担当者から下図のような修正結果が上がってきました。

DTPによる修正結果
残念ながら「太字の」という指示が反映されていません

よって新旧をAcrobatのPDF比較にかけるとこういう結果になります。

AcrobatによるPDF比較の結果例

「イザリウオ」が「カエルアンコウ」に変更された点は検出したけど、DTP原稿の「太字の」が反映されていないことには気づいてくれません。そう、Acrobatが見つけるのは「どう変わったか」であって「指示通りに変更されたか?」ではないのですよね。

だったらどうせ人間が確認しなければならないのだから「どこが変わったか」だけで十分ではないでしょうか?

XORは「どこが変わったか」だけを検出するアプリです。

Proof Checker PROには敵わないけど…

PDFの新旧比較をする製品として業界内で絶大な信頼を勝ち得ているのがProof Checker PRO。PDFの品質確保に特化しているので、万能アプリのAcrobatよりも精度の高い比較結果を返してくれます。加えてプリフライトの機能も優れているので、制作受注コンペの際に「Proof Checker PRO導入済み」は殺し文句のような効力を発揮します。

Proof Checker Pro 5 LITEの画像

そのProof Checker PROもバージョン4まではAcrobatと同じくPDFのデータを解析するタイプの比較が主力機能だったけど、昨年発売のバージョン5では「ビットマップ比較モード」が加わり、より完成度の高い校正ソフトウェアとなりました。

解析方式による比較だとPDFのデータ構造や修正内容によっては要素のペアリングがうまくいかず、どうしても不正確な結果が出かねないけど、ビットマップ化してビジュアル的に比較すればそれを補えるわけです。

ただし、Proof Checker PROは高機能、高性能なプロ用のソフトウェアで1ライセンスが100万円を超えています。LE版という期間限定のライセンスプラン(3ヶ月版/12ヶ月版)も用意されていて繁忙期だけ導入するような使い方ができるものの、それでも月額4.2万円からといった価格なので、やはり中小零細な制作会社や個人での導入は難しいでしょう。

よって、Proof Checker PROを乗り物に例えるなら「ラグジュアリーな高級車」。至れり尽くせりで誰もが憧れるものの、なかなか手が届かないような。

対してXORは「電動アシスト付き自転車」かな。補助はあっても動力すら人力だし、快適さでは大きく見劣りするけど必要最小限の目的は果たせます。そして何よりも導入費用と維持費が安いという。

また、Proof Checker PROはドングル方式なので複数人で使う場合はアプリをインストールした1台のPC、もしくはドングルの方を譲り合うことになります。そのため運悪く締め切りが重なれば順番待ちが発生するわけです。

でもXORは各人が自身のMac(近い将来はWindows PCでも)で独占的に使う前提です。しかも、Apple IDが同じなら職場でも自宅でも1つのライセンスだけで利用できます。

XORは機能面ではProof Checker PROには到底敵いません。Proof Checker PROが持つ様々な便利機能の内、ビットマップ比較モードだけを違う方式で実現した感じなので。

でも、導入・維持のコスト面に限ればXORの方がお手頃です。

Acrobatに勝っているところもあります

商用ドキュメンテーション業界の人なら制作物の新旧PDFを比較する重要性は痛いほどよく解っていることでしょう。些細なミスの見逃しが大きなダメージになることもあるので、より良いアプリを使いたいところです。選択肢はあまりないのだけど。

この用途で最も有名なアプリは何と言ってもAcrobat DC。Adobe純正の万能PDF操作アプリなので私も愛用しています。Adobe Creative Cloudのサブスクリプションを契約していれば追加費用なしに使えるのもいいですよね。

PDF-Compare-on-the-Acrobat-DC
Adoebe Acrobat DCによるPDF比較の画面

ただし、AcrobatによるPDF比較はうまくいくときもあれば、いかないときもあります。例えばこちらのテストデータ(アイコンのクリックでダウンロードされます)を比較した場合。

PDF icon
サンプルPDF(zip)

結果は下図の通り(画像のクリックで拡大表示されます)。

Acrobat DCによる比較結果
Adoebe Acrobat DCによるPDF比較結果の画面

「Yogata」が「YOGATA」に変化した点は検出しているものの、「TROPICAL PACIFIC」という白文字のフォントが変わった点は見過ごしています。つまり、文字比較は得意でもフォントの違いは比較アルゴリズムに含まれていないのでしょう。

いや、試しに比較の設定で「スキャンした文書、図面、イラスト」を選んでおけばフォントの変化も検出してくれるものの、このテストデータは私がInDesignから書き出したPDF。スキャンはしていません。よって、似たような制作物を作った際ににわざわざこのオプションを選ぼうと思うかは怪しいかと。忙しい最中、何通りものオプションを試すわけにもいかないし。

Acrobat DCの比較設定ダイアログ
この設定を選んだ時だけはフォントの違いを検出するけど…

でも、XORで比較すればこの通り。

XORによる比較結果
変更された箇所は青や赤で表示されています

XORでは二つのPDFをビジュアル的に比較するので解析漏れによる見落としは起こり得ません。もちろん人が見落せばどうにもならないのだけど。

Acrobatはドキュメント制作者にとって必要不可欠で、とても重宝するアプリですが、比較結果がPDFのデータ構造に左右されない点においてはXORの方が有利です。

サブスクリプション

XORの価格は月額2,000円のサブスクリプションです。30日の試用期間後もお使いいただくにはサブスクリプションの契約が必要になります。

XOR Subscription dialog

さて、このサブスクリプション費ですが、多くの方は「高い」と思われるかもしれません。

例えば、同じサブスクリプション方式 を採用するAdobe Creative Cloud(個人向けコンプリートプラン)は、Photoshop、Illustrator、InDesign、Acrobatなどの定番アプリの他にもたくさんのアプリが使えるのに月額5,680円。同じく、Microsoft Office(Office 365 Buisiness 一般法人向け)も、Word、Excel、PowerPointなどが使えて月額1,080円です。

これらに比べればXORの月額2,000円はいかにも割高ですが、それは見込めるライセンス数の違いによるものです。まだ無名で、かつ利用目的が単純なXORはターゲット層が限られるので、Adobe CCやOfficeのように膨大な数のユーザ獲得が見込めません。

XORはまだ始まったばかりです。Windows版のリリースも控えている上、優先順位の都合で今回は搭載できなかった機能のアイディアがまだまだたくさんあります。それらを実現するにはどうしても費用を高価に設定せざるを得ません。

よって、もっと便利な機能を有する将来バージョンの開発のための先行投資的な意味合いが含まれると考えていただければ幸いです。

それに、1ヶ月20日稼働なら1日あたり100円、コンビニのコーヒー1杯分です。割高には思えても、べらぼうに高額というわけでもないかと。