先貧論

かつて中国の鄧小平は「先に豊かになれる者たちを富ませ、落伍した者たちを助ける」という「先富論」を唱えたけど、今の日本はさながら「先貧論」とでも言うべき社会です。「運が悪い者から先に貧しくなれ。いずれ周りも続くから、自分だけが不遇じゃない」と言わんばかりの。

鄧小平
鄧小平像

日本では30年間もろくに賃金が上がっていないけど、理由は「安くないと買わない。売れないから安くする」というネガティブサイクルが根付いてしまったから。そして、それを支えているのが「派遣社員の使い勝手の良さ」です。間違いなく。

なにしろ企業は正社員を派遣社員に置き換えれば頭数を保ったまま人件費を下げられ、差額を収支の穴埋め、内部留保、そして値下げの原資に充てて安値競争に挑めるのだから。値引きは安易だけど強力なので「うちは品質で勝負します」が成立しません。

そんな中、正社員が収入アップを目指そうにも同業他社が中途採用より派遣の活用を望むなら転職なんて不可能。昇給がなかろうが賞与が減らされようが現職にしがみつかざるを得ません。住宅ローンや子供の教育費負担があればなおさらです。そして社員が辞めないなら会社側は賃上げする必要がありません。

「派遣の割合なんて労働者の2.5%だ」という人もいるけど、その2.5%の不遇ぶりがまるで見せしめのように機能して、60%に及ぶ正社員の多くの賃金も上がらなくなりました。

そればかりか長年企業でキャリアを積んだものの病気や親の介護などで会社を辞めた人がいざ再就職しようにも、正社員の門戸が閉ざされていれば派遣に甘んじるしかありません。つまり、企業側が横並びで正社員採用を控えるなら、スキルや経験値を持ったベテラン人材をもアルバイトのような条件で不当に安く雇えてしまうわけです。なんと理不尽な。

この構図に早急にメスを入れないとデフレや少子化もますます深まり、円安と輸入物価高も進んで日本はひたすら貧しくなるでしょうね。日本経済が力強さを取り戻さない限り低金利を続けざるを得ないのだから。

よって、ここは政治が動いて「派遣は雇用の調整弁にも使われる代わりに賃金は割高」とすべきです。フルタイムワーカー向けの最低賃金制度(派遣会社が派遣社員に支払う額の下限。派遣を依頼する企業が派遣会社に支払う額ではなく)を作って高めに設定するなりして。それは派遣の当事者の購買力を上げるだけでなく、正社員の賃金上昇の足枷を外すために。

だいたい東証プライム市場に派遣会社が 30社も名を連ねていることが異常だと思います。人材派遣は日本の有力産業なのでしょうか?

ちなみに日本の派遣会社の数は2年前の時点で米国(人口が日本の約3倍)の4倍だそうな。今の日本はいっそう貧しくなるために国を挙げて懸命に頑張っているようなもの。まさしく先貧論の社会です。

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