先日、ニューヨーク在住の大江千里氏が「日本の驚異的な「安さ」は働く人の我慢と犠牲が支えている」と発言し、話題になりました。
一部引用するとこの通り。
日本には500円で買える「ワンコインランチ」という言葉がありますが、ニューヨークだと5ドルじゃサンドイッチ一つだって買えません。大人気のラーメンだったら1杯20ドル(約2200円)以上。替え玉やトッピングをして、ビールも飲むと50ドル(約5500円)です。
日本で働く人は、企業に利用されちゃっている面がありませんか。本当ならもっとお給料をもらうべき仕事でも、文句を言わず我慢して、手も抜かずに働くでしょう?そこにある種の美しさはあるのですが、結果として経営者に安く使われている労働者が多いのでは。安い日本というのは、こういう我慢している人たちの犠牲の上に成り立っているのだと思います。
同意します。いや、それでも国が発展していかれるなら必要な犠牲と言えなくもないけど、現実はシビア。日本経済はじわじわと弱ってきています。無理もない、低所得労働者もまた消費者なわけだから。
終わりの始まり
では、なぜそうなったかというと、大きな理由の一つは「派遣の使い勝手が良すぎること」でしょう。2004年の派遣法改正でフルタイムワーカーをアルバイトのような条件で使い捨てできるようになったため多くの企業が飛びつき、合成の誤謬で「ワーキングプア増産システム」として機能してきました。
また、派遣依存は正社員にも影を落とします。派遣社員の増加、冷遇ぶりを目の当たりにした正社員は会社にしがみつき、会社は賃金を上げずとも社員を留めおけてしまうので。
しかも企業側が正規採用を絞るほど派遣への需要が高まります。そして経済的な余力がない人は選択の余地もなく、低賃金労働にも人材が供給されます。
「派遣社員の割合は全労働者の2.5%、40人に一人。ひとクラスに一人いるかいないか」なんて説もあるけどこれはミスリード。世の中には飲食や販売のように、そもそも派遣を必要としない業種、業態も多いので、それらを母数から除くと派遣の割合はぐっと上がります。ひとクラスに何人もいる換算です。
その結局、デフレがすっかりエンドレス化し、稼げない経営者や労働分配に消極的な企業、そして派遣会社以外、誰も得しない社会構造が出来上がってしまいました。言うなれば「アンチSDGs」です。持続不可能になってしまっていると。
巻き戻せ
とはいえ「期間限定で労働力を増員したい」「期間限定で働きたい」という労使双方のニーズは真っ当なので、派遣労働というシステムはそのままで単純に待遇を上げるといいでしょう。
具体的には以下のような政策が良いと思います。
- 最低賃金をパートタイムワーカー向けとフルタイムワーカー向けの二段構えにする
- フルタイムワーカーの最賃がパートの2倍未満は違法とする
(この最賃は会社が派遣会社に払う額ではなく、派遣会社が派遣社員に払う額)
- 交通費込み時給の求人は禁止
パートの最賃が時給1,000円の都市なら派遣の時給は2,000円以上。年収でいくと400万円近くにはなるのでワーキングプア脱却です。
派遣でもその水準の額が得られるならダメな会社にしがみつく必要がなくなり労働市場の流動化が高まって正社員の賃金も上がっていきます。そうしないと会社は有能な人材を引き止められなくなるので。
もちろん企業側の負担は増えるし、稼げない経営者は窮地に陥るかもしれないけど、本来あるべき姿に戻るだけです。いつまでもタコが自分の足を喰らうような、誰かの犠牲の上に成り立ったコストカット経営が許されるべきではありません。