Proof Checker PROには敵わないけど…

PDFの新旧比較をする製品として業界内で絶大な信頼を勝ち得ているのがProof Checker PRO。PDFの品質確保に特化しているので、万能アプリのAcrobatよりも精度の高い比較結果を返してくれます。加えてプリフライトの機能も優れているので、制作受注コンペの際に「Proof Checker PRO導入済み」は殺し文句のような効力を発揮します。

Proof Checker Pro 5 LITEの画像

そのProof Checker PROもバージョン4まではAcrobatと同じくPDFのデータを解析するタイプの比較が主力機能だったけど、昨年発売のバージョン5では「ビットマップ比較モード」が加わり、より完成度の高い校正ソフトウェアとなりました。

解析方式による比較だとPDFのデータ構造や修正内容によっては要素のペアリングがうまくいかず、どうしても不正確な結果が出かねないけど、ビットマップ化してビジュアル的に比較すればそれを補えるわけです。

ただし、Proof Checker PROは高機能、高性能なプロ用のソフトウェアで1ライセンスが100万円を超えています。LE版という期間限定のライセンスプラン(3ヶ月版/12ヶ月版)も用意されていて繁忙期だけ導入するような使い方ができるものの、それでも月額4.2万円からといった価格なので、やはり中小零細な制作会社や個人での導入は難しいでしょう。

よって、Proof Checker PROを乗り物に例えるなら「ラグジュアリーな高級車」。至れり尽くせりで誰もが憧れるものの、なかなか手が届かないような。

対してXORは「電動アシスト付き自転車」かな。補助はあっても動力すら人力だし、快適さでは大きく見劣りするけど必要最小限の目的は果たせます。そして何よりも導入費用と維持費が安いという。

また、Proof Checker PROはドングル方式なので複数人で使う場合はアプリをインストールした1台のPC、もしくはドングルの方を譲り合うことになります。そのため運悪く締め切りが重なれば順番待ちが発生するわけです。

でもXORは各人が自身のMac(近い将来はWindows PCでも)で独占的に使う前提です。しかも、Apple IDが同じなら職場でも自宅でも1つのライセンスだけで利用できます。

XORは機能面ではProof Checker PROには到底敵いません。Proof Checker PROが持つ様々な便利機能の内、ビットマップ比較モードだけを違う方式で実現した感じなので。

でも、導入・維持のコスト面に限ればXORの方がお手頃です。

Acrobatに勝っているところもあります

商用ドキュメンテーション業界の人なら制作物の新旧PDFを比較する重要性は痛いほどよく解っていることでしょう。些細なミスの見逃しが大きなダメージになることもあるので、より良いアプリを使いたいところです。選択肢はあまりないのだけど。

この用途で最も有名なアプリは何と言ってもAcrobat DC。Adobe純正の万能PDF操作アプリなので私も愛用しています。Adobe Creative Cloudのサブスクリプションを契約していれば追加費用なしに使えるのもいいですよね。

PDF-Compare-on-the-Acrobat-DC
Adoebe Acrobat DCによるPDF比較の画面

ただし、AcrobatによるPDF比較はうまくいくときもあれば、いかないときもあります。例えばこちらのテストデータ(アイコンのクリックでダウンロードされます)を比較した場合。

PDF icon
サンプルPDF(zip)

結果は下図の通り(画像のクリックで拡大表示されます)。

Acrobat DCによる比較結果
Adoebe Acrobat DCによるPDF比較結果の画面

「Yogata」が「YOGATA」に変化した点は検出しているものの、「TROPICAL PACIFIC」という白文字のフォントが変わった点は見過ごしています。つまり、文字比較は得意でもフォントの違いは比較アルゴリズムに含まれていないのでしょう。

いや、試しに比較の設定で「スキャンした文書、図面、イラスト」を選んでおけばフォントの変化も検出してくれるものの、このテストデータは私がInDesignから書き出したPDF。スキャンはしていません。よって、似たような制作物を作った際ににわざわざこのオプションを選ぼうと思うかは怪しいかと。忙しい最中、何通りものオプションを試すわけにもいかないし。

Acrobat DCの比較設定ダイアログ
この設定を選んだ時だけはフォントの違いを検出するけど…

でも、XORで比較すればこの通り。

XORによる比較結果
変更された箇所は青や赤で表示されています

XORでは二つのPDFをビジュアル的に比較するので解析漏れによる見落としは起こり得ません。もちろん人が見落せばどうにもならないのだけど。

Acrobatはドキュメント制作者にとって必要不可欠で、とても重宝するアプリですが、比較結果がPDFのデータ構造に左右されない点においてはXORの方が有利です。

サブスクリプション

XORの価格は月額2,000円のサブスクリプションです。30日の試用期間後もお使いいただくにはサブスクリプションの契約が必要になります。

XOR Subscription dialog

さて、このサブスクリプション費ですが、多くの方は「高い」と思われるかもしれません。

例えば、同じサブスクリプション方式 を採用するAdobe Creative Cloud(個人向けコンプリートプラン)は、Photoshop、Illustrator、InDesign、Acrobatなどの定番アプリの他にもたくさんのアプリが使えるのに月額5,680円。同じく、Microsoft Office(Office 365 Buisiness 一般法人向け)も、Word、Excel、PowerPointなどが使えて月額1,080円です。

これらに比べればXORの月額2,000円はいかにも割高ですが、それは見込めるライセンス数の違いによるものです。まだ無名で、かつ利用目的が単純なXORはターゲット層が限られるので、Adobe CCやOfficeのように膨大な数のユーザ獲得が見込めません。

XORはまだ始まったばかりです。Windows版のリリースも控えている上、優先順位の都合で今回は搭載できなかった機能のアイディアがまだまだたくさんあります。それらを実現するにはどうしても費用を高価に設定せざるを得ません。

よって、もっと便利な機能を有する将来バージョンの開発のための先行投資的な意味合いが含まれると考えていただければ幸いです。

それに、1ヶ月20日稼働なら1日あたり100円、コンビニのコーヒー1杯分です。割高には思えても、べらぼうに高額というわけでもないかと。

XORの便利な使い方

先日、PDF比較アプリ『XOR』をリリースしました。

XORは二つのPDFをビジュアル的に重ねて差異を見つける方式を採用しているので、比較結果としては「どこが変わったか」だけを表示します。Acrobat DCやProof Checker PROのようにPDFのデータ構造を解析して「どこがどのように変わったか」といった親切なリポートはできません。

よってXORの最も効果的な使い方はこれでしょう。

  • 冊子制作において、変化がなかったページを洗い出して確認対象から除外する

例えばAcrobatによるPDF比較では、ときおり差異の見落としが起きるので参考程度に留め、さらに目視で全ページを見比べていた方もおられたかと。

でも、XORの比較にかければ差異がある箇所が100%検出されます。ならば差異が無いページを洗い出すのも容易なので、それらを確認対象から除外すれば作業時間を削減できます。

ただし、中には「必要な修正がなされていない」というケースもあり得るので、単純に変化がないページは確認不要とはいかないのですが。

XORはなぜ必要?

先日、Macアプリ『XOR』をリリースしました。

なぜ私がこれを作ろうと思ったかというと、必要に迫られたから。

通常、商用ドキュメントの制作では作って一発OKということはなく、校正(検証)と修正を何度か繰り返して完成させます。取扱説明書の場合は製品のマイナーチェンジに合わせて改版が入ることもしばしば。よって新旧のPDFを見比べる機会が多々あります。印刷後にミスが見つかれば刷り直しの費用が発生したり納期が遅れて責任問題にもなりかねないので、できるだけ頼れるツールを用いたいところです。

新旧PDF比較の目的で最も有名なツールはAcrobat DCでしょう。業界人ならほとんどが持っているので追加コスト無しに使えるものの、残念ながら比較の精度があまり高くありません。完璧な比較結果を出してくれることも多いけど、そうでないときもあるといった具合です。

もう1つのスタンダード品がProof Checker PRO。こちらはAcrobatよりも精度が高い比較を実現していて業界人からの信頼が厚いものの、1ライセンスが100万円を超えるので、大きな組織なら導入できても中小零細業者やフリーランスの個人にはとても手が出ません。

そう、私も大手の制作会社に勤めていた頃はProof Checker PROが使えたけど、離職した今はどうにも

そんな中、ある日ふと思いました。「以前、自身が作ったPhotoshopプラグインをアプリにすればそこそこ売れるのでは?何より、自身が楽になるぞ」と。

それから紆余曲折があったけど、見込みよりも数ヶ月遅れでようやくMac版だけ先にリリースできました。